山本プロジェクトリーダーが国際ヒトプロテオーム機構(Human Proteome Organization, HUPO)の2020年度のClinical and Translational Proteomics Award(臨床トランスレーショナルプロテオミクス賞)を受賞しました。国際ヒトプロテオーム機構(HUPO)はヒトの全遺伝子(ゲノム、Genome)解析が終了後、ヒトの全タンパク質(プロテオーム, Proteome)の解析を目指して2001年に設立された国際コンソーシアムです。プロテオミクス(Proteomics)とは主に質量分析装置でサンプル中の全タンパク質(プロテオーム)を対象に、網羅的に同定・定量解析する研究とのことです。
山本プロジェクトリーダーは2000年頃から、腎臓病(糸球体疾患)の病態の分子機構を解明するために、プロテオミクスによる腎臓(糸球体)組織のタンパク質の網羅的解析を行い、組織で起きているタンパク質の量と質の変化の全容を解明し、腎臓病の病態を解明する研究を開始しました。2005年にはHUPOの国際イニシアチブプロジェクトとして、ヒト腎臓・尿プロテオームプロジェクト、Human Kidney and Urine Proteome Project (HKUPP)を組織し、そのプロジェクトを主導しました。HKUPPプロジェクトには尿中のタンパク質を網羅的に解析し、病気の発見などの指標となる分子(バイオマーカー)を探索する研究がありました。山本プロジェクトリーダーはその研究を発展させ、2013年に国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の大型研究プロジェクト、革新的イノベーション創出プログラム(COI)拠点創出で東北大学の「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する自助と共助の社会創生拠点」のサテライトに採用され、新潟大学の五十嵐キャンパスに生体液バイオマーカーセンター(Biofluid Biomarker Center, BBC)を設置し、「なんでも尿検査」プロジェクトをスタートさせました。
「なんでも尿検査」プロジェクトは尿検査であらゆる病気を早期発見したり、健康異常などを把握するための尿バイオマーカーをプロテオミクスで探索し、その検査法を実用化することを目指しています。2018年からは、生体液バイオマーカーセンターは東ソー株式会社の共同研究講座(新潟大学医歯学総合研究科腎研究センター)となり、主に腎臓病・糖尿病の尿バイオマーカー探索に焦点を当てて、研究を進めています。
山本プロジェクトリーダーは2018年から信楽園病院の検査科も兼務し、信楽園病院の患者さんや医療関係者の協力を得ながら、尿検体を収集し、生体液バイオマーカーセンターの「なんでも尿検査」プロジェクトを指導してきました。その結果、腎臓の部位別(糸球体、近位尿細管、遠位尿細管、集合間、間質)障害の新しい尿バイオマーカーを発見し、現在は、糖尿病の病態や臓器障害を早期に検出できる尿バイオマーカーの探索を行っています。これらの研究成果は毎年行われているHUPO年次総会など、国内外の学会や研究論文として発表してきました。
2020年、HUPOは山本プロジェクトリーダーのこれまでの腎臓プロテオミクス研究と尿バイオマーカーの探索研究成果を評価し、毎年選出するHUPO Awards の中で「HUPO2020 Clinical and Translational Award」をアジアで初めては山本プロジェクトリーダーに授与しました。
受賞対象となった研究成果は、尿プロテオミクスプラットフォーム(研究基盤)の構築と腎臓の障害部位別の尿バイオマーカーの確立です。前者には、HUPO HKUPPイニシアチブプロジェクトで作成した尿検体収集・保存の標準化ガイドと収集した尿検体からの安定したタンパク質精製法と定量プロテオミクスの確立があります。後者には、腎臓のネプロン各部の組織プロテオミクスから、それぞれの部位に特異的な障害尿バイオマーカーを選定し、その臨床応用をめざした研究とそれら一連の研究から「なんでも尿検査」が実現する可能性を示したことが含まれます。
この賞は生体液バイオマーカーの研究者のほか、多くの研究者・医療関係者のご協力、さらには、信楽園病院などの患者さんのご協力があって受賞したものです。あらためて、患者さんや医療関係者の感謝申し上げ、これからもご協力、ご支援をいただけましたら幸いです。また、この賞は「なんでも尿検査」実用化の一里塚として、れからも精進したいと思っています。
|