「なんでも尿検査」プロジェクト
  1.「なんでも尿検査」とは
2. プロジェクトの概要
3. 研究内容
4. ロードマップ


1. 「なんでも尿検査」とは
 

 
 「なんでも尿検査」は生体液バイオマーカーセンター(Biofluid Biomarker Center, BBC)の目標である生体液(血液、尿、唾液など)で健康異常や病気の早期発見を可能にする研究とその社会実装のキャッチフレーズです。生体液のなかでも、特に尿は非侵襲的に採取でき、古くから「尿は体の鏡」と呼ばれるように、血液とも関連し、体の情報を反映していると考えられています。
 体の情報はさまざまな分子などを介して提供され、バイオマーカーと呼ばれます。それらの分子の中でも、タンパク質やその分解産物であるペプチドは、生体機能を担う分子として、また、急激な環境変化などによる影響は受けにくく、生体内の情報を安定して伝達する分子としてバイオマーカーの対象分子として、もっと有力と考えられます。
 生体液バイオマーカーセンター(BBC)の「なんでも尿検査」プロジェクトでは尿のタンパク質やペプチドを網羅的に解析するプロテオミクス、ペプチドミクスでバイオマーカーを探索しています。はじめに、さまざまな病気の患者さんや健康な人の尿を必要な検査終了後に収集し、バンキングすることから始まります。生体液バイオマーカーセンター(BBC)ではそれらの尿タンパク質やペプチドを抽出し、それらを質量分析装置で網羅的に解析(プロテオミクス・ペプチドミクス)します。この解析で尿中の1000種類以上のタンパク質、ペプチドが定量され、それらを健康な人とある病気の人の尿で比較し、病気や健康障害の指標(バイオマーカー)となる分子を探します。さらに、それがバイオマーカーとして使えるかどうかをさらに多くの尿検体で検証し、その有用性を確認後、その検査法を開発し、その社会実装、実用化を目指します。
 「なんでも尿検査」はすべての病気の早期発見を可能にすることを目指していますので、それぞれの病気に一つずつのバイオマーカーがあったとしても、100種類以上のバイオマーカーを選定することになります。また、それらを安価に測定できる新しい検出装置の開発も必要になると考えています。
 その検出は家庭や職場で採取した尿を検査センターに送り、そこで検査され、結果が個人に返される仕組みを最初に目指しています。さらに、将来は、検査を家庭や職場でできるようにするのが夢です。
 そうすることにより、きめ細かく健康診断が行われ、病気や健康障害が早期に発見され、早期の治療で病気が重症化、慢性化せず、病気の人の少ない社会が実現すると考えています。
 

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2. プロジェクトの概要
 

 
尿の収集、保存(バンキング)  
 健康診断や人間ドッックを受けられた人の中で、検査などで異常がなかった人を健常者とし、検査後に不要になった尿を「なんでも尿検査」プロジェクトに使用させていただいています。
 また、医療機関を受診したあらゆる病気の患者さんにも協力をお願いし、検査後に不要になった尿を提供していただき、それらを収集しています。それぞれの病気については、その病気の専門の医師、研究者との共同研究で尿のバイオマーカー探索をしています。
 なお、プロテオミクス・ペプチドミクスのための尿の採取、保存方法はHuman Proteome Oeganization の Human Kidney and Urine Proteome Project の国際共同研究で、標準化した方法で行っています(HKUPP)。


尿タンパク質・ペプチドの網羅的解析(プロテオミクス・ペプチドミクス)  
 保存された尿には通常、5?50 μg/ml 程度の、タンパク質やペプチドが含まれています。バイオマーカー探索の解析には、数 μg必要なだけで 1=5 ml もあれば、そこから、タンパク質やペプチドが抽出でき、解析できることになります。
 抽出したタンパク質やペプチドは、前者はトリプシン消化してペプチドとして、後者やそのままで、質量分析装置で、検出できる全タンパク質、ペプチドを網羅的に同定・定量します。「なんでも尿検査」では、タンパク質やペプチドを特に標識とかしない方法(非標識)定量法で解析し、それぞれのタンパク質やペプチドを健常者や他の病気の患者さん尿と比較し、ある病気の尿バイオマーカーを探索しています。
 質量分析装置は解析結果が網羅的で、詳細ですが、その解析に時間がかかります(1解析、数時間)ので、多検体の解析には向いていません。そのため、質量分析装置にようる解析にはあまり多くの尿の解析はせず、その解析で見つかるものはバイオマーカー候補と位置づけています。そのため、現在は、そのバイオマーカー候補の検証を抗体を用いた測定系を使って、多検体で検証することを行っています。


尿バイオマーカー候補の検証  
 あるバイオマーカー候補が質量分析装置の解析結果から得られた場合、その分子に対する抗体を入手します。抗体による定量測定には、抗体が1種類だけあればできる表面プラズモン共鳴装置を使った測定系を用いています。この方法により数百検体を用いた検証が可能になっています。

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3. 研究内容
 

 
尿バイオマーカー候補の探索  
 現在、健康診断の多くは血液検査と画像検査で行われています。血液中には全身の臓器や組織の異常を示す指標分子が流れていて、それを検査して、身体の異常を発見しています。しかし、血液検査は通常、医療機関などで採血する必要があるので、どこでも、いつでも検査できません。一方、尿は、血液中に流れている物質のうち、分子量が血漿タンパク質のアルブミンより小さな分子が腎臓の糸球体で濾過され、生成されます。血液から尿中に濾過される小分子の物質には、水分子、ナトリウムやカリウムなどの電解質、クレアチニンや尿酸などの代謝産物のほかに、C?ペプチドやNT-proBNP などのペプチド、さらには、ペプチドより大きなタンパク質アルブミンや免疫グロブリンの軽鎖などのタンパク質も含まれています。
 血液中のタンパク質やペプチドはさまざまな細胞で作られ、その細胞の機能を担っています。それぞれの細胞は、それぞれ特長的な働きをもち、それを担っているのがタンパク質やペプチドです。そのため、血液中のそれら特長的なタンパク質やペプチドを測定することで、それらを産生する細胞や臓器の様子が調べられるのです。これまでの検査対象分子は細胞ごとの研究で明らかになった分子をひとつずつ、細胞や臓器の障害、すなわち病気のバイオマーカーになるかどうか調べて検査法として確立されたものです。そのため、残念ながら、すべての病気の検査法を確立するには、まだまだ、新たなバイオマーカーの探索が必要です。生体機能を担うタンパク質やペプチドはもっとも有力な探索対象で、それらを網羅的に解析するプロテオミクス研究手法が近年、急速に進歩し、プロテオミクスによる解析で新たなバイオマーカーが見つかると大きな期待が寄せられました。しかし、血液中には、全タンパク質の約半分の量をアルブミンが占め、また、多いタンパク質20種類くらいが全タンパク質の約99%を占めることから、残りの1%程度のタンパク質をプロテオミクスで定量的に解析するのは困難でした。

 一方、生体液バイオマーカーセンター(BBC)は泌尿器系細胞、臓器や血液などから尿中に排泄されるタンパク質やペプチドを解析対象にしています。非侵襲的に採取でき、古くから「尿は体の鏡」と呼ばれるように、血液とも関連し、体の情報を反映していると考えられています。
 体の情報はさまざまな分子などを介して提供され、バイオマーカーと呼ばれます。それらの分子の中でも、タンパク質やその分解産物であるペプチドは、生体機能を担う分子として、また、急激な環境変化などによる影響は受けにくく、生体内の情報を安定して伝達する分子としてバイオマーカーの対象分子として、もっと有力と考えられます。
 生体液バイオマーカーセンター(BBC)の「なんでも尿検査」プロジェクトでは尿のタンパク質やペプチドを網羅的に解析するプロテオミクス、ペプチドミクスでバイオマーカーを探索しています。尿中には様々なタンパク質やペプチドが排泄されていて、しかも、血液で問題となったようなほとんどのタンパク質量を20種類ほどのタンパク質が占めることはないので、プロテオミクスでバイオマーカーを探索するには有利です。また、尿は非侵襲的に採取できるので、検体の収集も容易ですし、検査法が実用化された時も検査が容易で、ヒューマンフレンドリーの検査法になります。



尿バイオマーカーの検証  
 プロテオミクスによる網羅的タンパク質の定量解析には高価な質量分析装置を使いますが、1件体の解析に、2?3時間かかり、スループットが良くなく、ある病気の、ある重症度の患者検体をそう多くは解析できないのが欠点です。そのため、生体液バイオマーカーセンター(BBC)では、質量分析装置による解析でバイオマーカー候補をいくつか選択し、それらの候補の中でもっとも良いマーカーを、それらの候補タンパク質、ペプチドに対する抗体を用いた検査法で、数百の尿検体を用いて検証し、バイオマーカーを選択する戦略をとっています。抗体を用いた検査法はすでに臨床検査で広く使われていますので、実用化は容易と考えられます。


尿バイオマーカーの検査法の開発  
 「なんでも尿検査」はすべての病気の早期発見を可能にすることを目指していますので、それぞれの病気に一つずつのバイオマーカーがあったとしても、100種類以上のバイオマーカーを選定することになります。また、尿検査で頻回に検査すること、さらには家庭や職場などで採取した尿を検査することも考えていますので、それらを安価に測定できる新しい検出装置やセンサーの開発も必要になると考えています。


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4. ロードマップ
 

 
 「なんでも尿検査」はできるだけ多くの病気や健康障害を尿検査で検出できることを目指しています。そのため、10年くらいをかけて、少しづつ疾患の数を増やし、最終的にはほとんどの病気の尿バイオマーカーを見つけたいと考えています。2019年からは、患者さんの数の多い、生活習慣病(糖尿病、肥満、高脂血症、高尿酸血症、高血圧症など)の尿バイオマーカー探索を開始しました。また、同時に、検査センターなどでほとんどの病気のバイオマーカーを1回の尿検査で検出できる検出装置の探索、開発も行っていく予定です。

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2024     新潟大学     Biofluid Biomarker Center,
生体液バイオマーカーセンター     Niigata University